うつ病のカウンセリングをしていると、こんなことをよく聞かれます。
「断薬をすれば治りますか?」
「どの薬を飲めば治りますか?」
と。
私から見ると「皆さん、薬にとらわれすぎているな」と感じます。薬にとらわれている間は、うつは良くなりません。
先日、こんな出来事がありました。
母が転んで足をくじいたときです。整形外科に行って、レントゲンを撮ってもらったのですが、その時に骨粗しょう症の検査もお願いしました。
幸い、骨折はしていなかったものの、同年代と比べて骨密度が低く、骨粗しょう症という診断でした。その時に骨粗しょう症の薬が出たのですが、その薬の主成分はビタミンだったのです。ビタミンは、カルシウムの吸収を助ける働きがあります。
骨粗しょう症を治すのに必要なのはカルシウムなので、カルシウム剤が処方されるのかなと思っていましたが、意外にも違いました。そして、お医者さんはこう言いました。
「カルシウムが多く含まれている物を食べるようにして、歩いたり運動して骨に刺激を与えてください」と。
これを聞いたとき、私はうつ病の治し方と同じだ!と思いました。
なぜなら、うつ病を良くするためには脳の神経伝達物質を生成するたんぱく質が必要です。しかし、病院ではたんぱく質は処方されません。そして、うつ病の薬は神経伝達物質の生成を助けたり、再取り込みを阻害して濃度を増やす補助だからです。
例えば、私が骨粗しょう症を治したいのに、下記のようなことを言っていたらどう思いますか?
「運動する気力が起きないので、薬を飲んで骨密度が上がったら運動を始めます。」
「今日はパンとカップ麺を食べました。料理する気も無いし、栄養とかどうでも良いです。」
「もっと早く治したいので、骨粗しょう症の薬をもっと下さい」
と言って違う種類の薬を5錠くらい飲んでいたら、どうでしょうか。
絶対治らないだろ!って思いますよね?
骨粗しょう症で例えると薬だけでは絶対治らないって分かるのに、それがうつ病になると途端に分からなくなって上記のようになってしまうんです。
骨密度を上げるには薬を飲んで寝ているだけでは上がりません。必要な栄養を食事から摂取して、骨に刺激を与える運動をして、補助として薬を飲む。これと同じく、うつ病も薬を飲んで寝ているだけでは治らず、必要な栄養を摂取して、脳に刺激を与えて、補助として薬を飲む。
それなのに、薬にだけフォーカスしすぎている人が多すぎます。違う名前の抗うつ薬や安定剤を何錠と飲んでも、効果が重複してしまってほとんど意味がありません。
これは、骨粗しょう症の薬を何十錠と飲んでも骨密度は上がらないのと一緒で、逆に副作用や肝機能に悪影響が出てきます。
これに対して、薬が悪いなら「薬を減薬・断薬すればうつ病は治る」という単純な思考によってスパッと止める人が居ますが、これも違います。
骨密度が足りていない状態で骨粗しょう症の薬をスパッと止めるのと同じように、抗うつ剤や安定剤も、正常値まで神経伝達物質の生成が出来ないうちに止めるべきではありません。うつ病が再発したり、減薬・断薬に失敗している人が多いのは、このような基本を無視しているからです。
「薬はいつ止めれば良いですか?」という質問もよく頂きます。骨粗しょう症の薬は、骨密度が正常かそれ以上になれば飲まなくても良いですよね? それと同じく、抗うつ剤や安定剤は、栄養補給と認知行動療法等の刺激で神経伝達物質が正常に作られるようになれば、飲まなくていいんです。
つまり、うつ病の治療は薬にフォーカスするのでは無く、神経伝達物質を生成する栄養素と、運動や趣味、生きがいなどで脳に刺激を与えることにフォーカスすべきなのです。
「うつ病が治ってから動く」という完璧主義の人が多いですが、治ってから外に出掛けるというのは間違いです。キツくて動けないなら寝ていても良いですが、なるべく動く努力が必要です。
減薬や断薬は、うつ病を治す一つの手段とプロセスです。スパッと止めたら鬱が治るとか、これを飲めば治るとか、そんな簡単なことではありません。うつ病を治すには、他にもやらなければならないことがあります。薬だけにとらわれないようにしましょう。
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